Target-seqとは
Target-seqとは、ゲノム全体を読むのではなく、あらかじめ決めた遺伝子やゲノム領域を選択的に読み取る次世代シーケンス解析です。日本語ではターゲットシーケンス、ターゲットリシーケンス、標的シーケンスなどと呼ばれます。
全ゲノムシーケンスがゲノム全体を網羅的に読む方法であるのに対して、Target-seqでは研究目的に関係する領域に解析対象を絞ります。
そのため、同じシーケンス量でも目的領域を深く読むことができ、特定遺伝子の変異解析、疾患関連遺伝子パネル解析、微生物叢解析、環境DNA解析などに利用されます。
Target-seqでは、どの領域を読むかという実験設計と、得られたFastQデータをどのように解析するかという情報解析の両方が重要になります。
Target-seqで何がわかるのか
Target-seqでは、目的に応じてさまざまな情報を得ることができます。
遺伝子変異解析では、特定遺伝子や遺伝子パネル内の一塩基変異、挿入欠失、既知変異、低頻度変異などを調べます。疾患関連変異や薬剤応答に関わる変異の探索に利用されます。
アンプリコン解析では、PCRで増幅した特定領域をシーケンスします。16S rRNA遺伝子解析、バーコード領域解析、特定遺伝子領域の多型解析などが代表例です。
ターゲットパネル解析では、複数の遺伝子やゲノム領域をまとめて解析します。全ゲノムを読むよりもデータ量を抑えながら、目的領域を高いカバレッジで解析できます。
このようにTarget-seqは、研究仮説に関係する領域を効率よく深く読むための手法です。
Target-seqの主な方法
Target-seqには、主にアンプリコンシーケンス型とハイブリッドキャプチャ型があります。
アンプリコンシーケンス型では、目的領域をPCRで増幅し、その増幅産物をシーケンスします。対象領域が明確で、比較的短い領域を多数のサンプルで解析したい場合に適しています。
ハイブリッドキャプチャ型では、目的領域に結合するプローブを使って、ゲノム断片の中から読みたい領域を濃縮します。遺伝子パネルやエクソン領域など、比較的広い標的領域を解析する場合に使われます。
どちらの方法でも、プライマーやプローブの設計、DNAやRNAの品質、ライブラリ作成の条件が結果に大きく影響します。
Target-seqと全ゲノムシーケンスの違い
全ゲノムシーケンスでは、ゲノム全体を対象として配列を読み取ります。未知の変異や構造変異を広く探索できる一方で、データ量が大きく、解析コストも高くなります。
一方でTarget-seqでは、解析対象を特定の遺伝子や領域に限定します。そのため、目的領域をより深く読むことができ、低頻度変異の検出や多サンプル比較に向いています。
ただし、Target-seqでは設計した標的領域の外側は基本的に解析できません。したがって、研究目的に応じて「どの領域を読むべきか」を事前に明確にすることが重要です。
Target-seqの解析ワークフロー
Target-seqの解析は、実験と情報解析が連続したワークフローとして進みます。
まず、研究目的に応じて対象遺伝子や対象領域を決定します。次に、プライマーやプローブを設計し、DNAまたはRNAを抽出してライブラリを作成します。
シーケンシング後にはFastQファイルが得られます。FastQ解析では、リードの品質確認、アダプター配列の除去、低品質リードのフィルタリング、参照配列へのマッピング、カバレッジ評価、変異検出、統計解析、可視化などを行います。
Target-seqでは、FastQファイルを受け取って終わりではなく、そこからどのように信頼できる生物学的結論を引き出すかが重要です。
Target-seqに必要なバイオインフォマティクス
Target-seqのデータ解析には、生命科学と情報科学の両方の知識が必要です。
具体的には、分子生物学/ゲノム科学/NGSライブラリ作成/FastQ品質評価/Linux環境での解析/RやPythonによる統計解析/可視化/ワークフロー管理などです。
また、リード数、カバレッジ、マッピング率、重複率、PCRバイアス、バッチ効果などを理解し、実験条件と解析結果を結びつけて解釈する力も求められます。
Target-seqは、全ゲノム解析よりもデータ量が扱いやすい一方で、オミクス解析に必要な基本的な考え方を学びやすいテーマです。
Target-seqとTARGET-seqの違い
文献や検索結果では、「Target-seq」と「TARGET-seq」が異なる意味で使われることがあります。
一般的なTarget-seqは、特定の遺伝子やゲノム領域を選択的に読むターゲットシーケンスを指します。
一方で、大文字表記のTARGET-seqは、単一細胞レベルで変異情報とトランスクリプトーム情報を同時に取得する特定の手法名として使われる場合があります。
そのため、論文やプロトコルを読むときには、その文脈でTarget-seqが一般的なターゲットシーケンスを指しているのか、特定の単一細胞解析法を指しているのかを確認する必要があります。
当研究室におけるTarget-seq
当研究室はwetの研究室ですが、さまざまなオミクス解析を研究に取り入れています。
シーケンシング自体は外部機関に委託していますが、ライブラリ作成までの実験設計・実験操作と、返却されたFastQデータ以降の解析は研究室内で行っています。
Target-seqのような解析では、wetの実験条件とdryのデータ解析を切り離さずに考えることが重要です。どの領域を読むか、どの程度のカバレッジが必要か、どの変異を信頼できると判断するか、サンプル間の違いが生物学的差なのか技術的差なのかを検討する必要があります。
- Target-seqで扱う主な工程
- 対象遺伝子・対象領域の設計
- DNAまたはRNAの抽出
- ライブラリ作成
- シーケンシング外注
- FastQデータの品質確認
- リードのトリミングとマッピング
- 変異検出、カバレッジ評価、統計解析
- 生物学的解釈と可視化
- 関連するバイオインフォマティクス技術
- Linux環境でのNGSデータ解析
- RやJuliaによるデータ解析
- 解析パイプラインの構築
- オミクスデータの統合解析