研究内容02

マルチオミクス解析

ヒト多能性幹細胞から作製した骨格アセンブロイドを対象に、 bulk RNA-seq、single-cell RNA-seq、ATAC-seq、CUT&Tagを統合し、 ヒト四肢骨格発生を理解するためのマルチオミクス解析を行います。

複雑な組織発生を単一データだけで理解することの限界

ヒト四肢骨格発生では、四肢芽間葉細胞、関節軟骨、成長板、肥大軟骨細胞、骨形成関連細胞など、多様な細胞状態が時間的・空間的に変化します。
そのため、単一のマーカー遺伝子や組織像だけでは、誘導した細胞・組織が発生過程のどの段階に対応するのかを十分に説明できません。

本研究では、ヒト多能性幹細胞由来の骨格アセンブロイドを、 bulk RNA-seq、single-cell RNA-seq、ATAC-seq、CUT&Tagといった複数階層のデータから評価します。
これにより、wet実験で得られた組織モデルを、発生生物学的・データ科学的に位置づけます。

ヒトiPS細胞由来骨格アセンブロイド

解析対象は、ヒト多能性幹細胞からPRRX1陽性の肢芽間葉系細胞を経由して誘導される骨格系細胞です。
培養条件を分岐させることで、関節軟骨オルガノイドと、成長板軟骨オルガノイドを作製します。
さらに、成長板軟骨オルガノイドの両端に関節軟骨オルガノイドを配置することで、空間構造を持つ骨格アセンブロイドを構築します。

これらのモデルは、ヒト四肢骨格発生における細胞分化、軟骨形成、内軟骨性骨化、長軸方向成長を解析するための実験基盤になります。
マルチオミクス解析では、それぞれのオルガノイドがどの細胞状態を再現しているか、 どの遺伝子プログラムが活性化しているか、移植後にどのような組織運命をたどるかを統合的に評価します。

ヒトiPS細胞由来骨格アセンブロイドの解析対象
図2. 解析対象。ヒトiPS細胞から関節軟骨オルガノイド、成長板軟骨オルガノイド、骨格アセンブロイドを作製し、それぞれを多層的なデータで評価します。

single-cell RNA-seqによる細胞状態の同定

single-cell RNA-seqは、アセンブロイド内部に含まれる細胞集団を1細胞レベルで分解し、 それぞれの細胞がどの分化段階・細胞型に対応するかを推定するための中心的な解析です。
PRRX1、GDF5、PRG4、SP7などのマーカー遺伝子に加え、軟骨形成、関節形成、成長板成熟、骨化に関わる遺伝子プログラムを評価します。

得られた細胞集団は、ヒト胎児四肢のsingle-cell atlasや既存の発生データと比較することで、 in vitroで誘導した細胞がヒト発生過程のどの細胞状態に近いかを検証します。
これにより、アセンブロイドの「見た目」だけでなく、分子状態に基づく発生段階の同定が可能になります。

細胞クラスタリング

1細胞発現プロファイルから細胞集団を分類し、関節軟骨細胞、成長板軟骨細胞、肥大軟骨細胞などの候補集団を同定します。

マーカー遺伝子解析

発生段階や細胞型を特徴づける遺伝子発現を用いて、各クラスタの生物学的意味を解釈します。

参照データとの比較

ヒト胎児四肢データと照合し、誘導細胞が実際のヒト発生過程にどの程度近いかを評価します。

分化軌道の推定

擬似時間解析や遺伝子発現変化を用いて、四肢芽間葉から軟骨・骨形成系譜への遷移を推定します。

single-cell RNA-seqによる骨格アセンブロイドの細胞状態解析
図3. single-cell RNA-seq解析。アセンブロイドに含まれる細胞集団を分類し、ヒト胎児四肢の細胞状態との対応関係を解析します。

マルチオミクス解析としての到達点

本研究の重要性は、骨格アセンブロイドを作ることだけではなく、その細胞状態、組織構造、移植後運命、再生能を 複数のデータ階層から統合的に評価する点にあります。
これにより、ヒト四肢骨格発生を再現する実験モデルを、定性的な観察ではなく、 データに基づく再現性の高い評価系として利用できます。

研究の意義

マルチオミクス解析によって骨格アセンブロイドの品質と発生段階を定量的に評価できれば、 ヒト骨格発生の理解だけでなく、疾患モデル、薬剤スクリーニング、再生医療用細胞・組織の品質管理にも応用できます。
さらに、移植後の組織形成能を事前のオミクスデータから予測できるようになれば、 再生医療における安全性・有効性評価の新しい指標につながります。

関連論文

論文

Modeling human limb skeletal development using human pluripotent stem cell-derived skeletal assembloids
Tomoka Takao, Tatsunori Osone, Kohei Sato, Daisuke Yamada, Yuki Fujisawa, Masaya Hagiwara, Eiji Nakata, Toshifumi Ozaki, Junya Toguchida, Takeshi Takarada
bioRxiv, 2025

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